SLEと感染症
~感染症予防のために
できること~
SLE患者さんは、SLEの疾患管理で使用する治療薬の影響によってインフルエンザ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、帯状疱疹などの感染症にかかりやすくなることがあります1)。感染症にかかった場合は症状が重くなることがあるため2)、感染症の予防と早期発見が重要と考えられます。
感染症の影響について
SLE患者さんに対する感染症の影響について、今回はインフルエンザ、
COVID-19、帯状疱疹の3つをご紹介します。
インフルエンザ
季節性インフルエンザは、日本では例年12月~3月に流行し、38℃以上の発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛、全身倦怠感などの症状が比較的急速にあらわれるのが特徴です3)。併せて普通の風邪と同じように、のどの痛み、鼻汁、咳などの症状も見られます3)。副腎皮質ステロイドを含む免疫抑制薬を使用しているSLE患者さんでは、免疫力が低下しているため、感染すると症状が重くなる可能性があります2)。
COVID-19
COVID-19は感染者の咳、くしゃみ、会話等のときに排出されるウイルスを含む飛沫や、感染者の目や鼻、口に直接触ることによって発症することがあります4)。また、物や指についたウイルスが目、鼻、口に触れることで発症することもあり4)、発症すると発熱、咳、鼻水、咽頭痛、倦怠感などの症状があらわれます4)。SLE患者さんでは体調を崩しているときにCOVID-19を発症した場合、症状が重くなる可能性があります5)。
帯状疱疹
帯状疱疹は水痘帯状疱疹ウイルスが原因で起こります6)。初めてこのウイルスに感染すると水ぼうそうを発症し、治った後も、生涯にわたり神経に潜伏しているウイルスが免疫力の低下により再活性化*して帯状疱疹を発症します6)。主な症状は、皮膚の痛み、水ぶくれを伴う発疹です6)。SLE患者さんは帯状疱疹の発症リスクが高くなるという報告があり、帯状疱疹の発症に関連があると報告された17疾患†のある患者さんを対象にした調査では、SLE患者さんはSLEがない人※に比べて帯状疱疹を発症するリスクが約4.1倍というデータが示されています7)。
*再帰感染といい、一般に、初感染と比較して感染力が低いとされる。
†帯状疱疹の発症に関連があると報告された17疾患 脳腫瘍、肺がん、乳がん、食道がん、胃がん、大腸がん、婦人科がん、悪性リンパ腫、SLE、関節リウマチ、シェーグレン症候群、 糖尿病、 高血圧、腎不全、椎間板ヘルニア、白内障、うつ病
※「その疾患がない方」とは、17疾患のうち、対象となる疾患がなかった方を指します。たとえば、「高血圧がない方」というのは、17疾患のうち高血圧の疾患がなかった方を指しますが、いずれかの疾患がある方です。
【本調査の対象・方法】7)
調査の対象と方法:2001~2007年に日本の単一施設での電子カルテの記録から、帯状疱疹の発症に関連があると報告された17疾患の患者(帯状疱疹発症769例および帯状疱疹非発症54,723例)を対象に、それぞれの疾患がある場合の帯状疱疹の発症のリスクを過去にさかのぼって調査し、分析した。
【本研究の限界】7)
①疾患のある方と疾患のない方を比較しているわけではない。②帯状疱疹発症後、被験者が必ずしも同じ病院を受診していなかったため、観察期間には制限がある。
感染症予防のためにできること
SLE患者さんにとって、感染症の予防は健康管理の一環として重要と考えられます。では、インフルエンザ、COVID-19、帯状疱疹の予防のためにどのような対策ができるか見ていきましょう。
健康的な生活を心がける
免疫力を高めるために日頃から健康的な生活を心がけることが大切です3)。栄養バランスのよい食事をとる、十分な睡眠をとる、適度な運動を行うなど3)、ご自身の体調を見ながら取り組んでみましょう。
ワクチンの接種
インフルエンザ、COVID-19、帯状疱疹など感染症の中にはワクチンがあるものもあります。ワクチンの接種には、発症する可能性を低減させる、あるいは発症した場合の重症化を防ぐ効果があるといわれています3,8,9)。ただし、免疫抑制療法を受けているSLE患者さんは、接種に制限があるものもありますのでワクチン接種前に主治医と相談し、ご自身の状況に応じたワクチンを選択しましょう。
手洗い、マスクの着用
インフルエンザおよびCOVID-19については、外出時の予防策として、流水、石鹸による手洗いやマスクの着用が推奨されています3,4)。特に人混みの多い場所では、ある程度、飛沫感染等を防ぐことができる不織布(ふしょくふ)製マスクを着用するのが望ましいといわれています3)。また、アルコール製剤による手指の消毒も予防に効果があるといわれています3,4)。
感染症予防を普段から心がけるとともに、ご自身の体調の変化や感染症の徴候に気づいた場合は、症状が重くなる前に速やかに医療機関を受診することが大切です。健康管理を考えるうえでSLEへの感染症の影響や予防について気になることがあれば、医師に相談してみてはいかがでしょうか。
- 1)「難病情報センター 全身性エリテマトーデス
(SLE)(指定難病49)」(厚生労働省)https://www.nanbyou.or.jp/entry/53 (2024年10月24日に利用)
- 2)「新型インフルエンザワクチンの優先接種の対象とする基礎疾患の基準 手引き 」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/
10906000/000692198.pdf (2024年10月24日に利用) - 3)「令和5年度インフルエンザQ&A」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/
bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-
kansenshou/infulenza/QA2023.html (2024年10月24日に利用) - 4)「新型コロナウイルス感染症」(厚生労働省検疫所FORTH)
https://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/
newpage_00035.html (2024年10月24日に利用) - 5)「日本リウマチ学会からのお知らせ」(日本リウマチ学会)
https://www.ryumachi-jp.com/information/
medical/covid-19_2/ (2024年10月24日に利用) - 6)「帯状疱疹ワクチンについて」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/
10900000/001266216.pdf (2024年10月24日に利用) - 7) A Hata, et al. Infection. 2011; 39(6): 537-544.
- 8)「新型コロナワクチンの有効性・安全性について」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/
bunya/vaccine_yuukousei_anzensei.html (2024年10月24日に利用) - 9) 「帯状疱疹ワクチンファクトシート 第2版」(国立感染症研究所)
https://www.mhlw.go.jp/content/
10900000/001266215.pdf (2024年10月24日に利用)