ここまで知ってほしいSLE

自覚しにくい症状や臓器への影響、
周囲の理解を得ることの大切さ

2025年5月24日、全身性エリテマトーデス(SLE)患者と、そのご家族・ご友人に向けた疾患啓発セミナーが開催されました。
プログラムは、医師による、SLEの症状や臓器への影響、治療薬、医師と患者さんとの対話などに関する講演と、SLE患者の方による、主治医や周囲の人とのコミュニケーションに関する体験談でした。
講演と体験談、それぞれの内容を抜粋してご紹介します。
編集協力:東北医科薬科大学病院 石井 智徳 先生

ここまで知ってほしいSLE
講演:石井智徳先生

「ここまで知ってほしいSLE」

SLEや治療時の対話について解説いただいたの
は、東北医科薬科大学病院の石井智徳先生です。

SLEは全身で炎症が起こる病気

全身性エリテマトーデスとは、自身の免疫が自分自身の細胞を攻撃してしまう、膠原病と呼ばれる病気の一種です。英語名Systemic Lupus Erythematosusの頭文字を取ってSLEといわれます1)。日本では6~10万人ほどの患者さんがおり、その約9割を女性が占めているとされています2)。
SLEでは、全身(Systemic)に炎症を引き起こします。皮膚に炎症が生じた場合、赤い発疹(Erythema=紅斑)が見られ、ときに深掘りの穴のような状態になることもあります1)。また、発疹、脱毛、紫外線によって発疹や水ぶくれなどが生じる日光過敏症もしばしば見られます3)。
ほかに気づきやすい症状として、持続する発熱や全身倦怠感、関節の腫れおよび痛みなども挙げられます2)。こうした病状は、症状の組み合わせ、現れる時期、強さなど、個人差が大きいため、一つの症状があるからといってSLEとは断定できません。

SLEは全身で炎症が起こる病気

SLEによる炎症が臓器に影響

SLEで知っておきたいのは、目に見えない体内の臓器において炎症が起こる可能性があるということです。頻度が多いのは腎臓ですが、ほかにも心臓や血管、肺、肝臓、脳など、さまざまな臓器が挙げられます3)。
臓器に起こる炎症によって問題となるのが、次第に臓器本来の働きができなくなっていく可能性があることです。SLEによる炎症は治まらずに持続してしまう場合があります。それによって、もともとの組織とは異なる、傷跡のような硬い状態が臓器に生じることがあります4)。このような影響は、徐々に進んでいくことや、元に戻りにくいことが知られています。
SLEによる臓器への影響は症状からは自覚しにくく1)、診断を受けた時点で、すでに臓器の障害が進行している可能性もあります。臓器の機能低下をできる限り予防するための方法などについて、主治医の先生に聞くこともお勧めします。

治療目標の達成には医師との会話が大切

SLEは炎症が強く、臓器の障害が進みやすい時期(再燃)と、症状が落ち着いている時期(寛解)があり、繰り返すうちにダメージが蓄積していきます。そのため、副腎皮質ステロイド、免疫抑制剤、免疫調整剤、生物学的製剤1)といった薬を中心とした治療で、炎症を防ぐ、あるいはいち早く鎮めるようにしつつ、薬の量を減らすことも目指します。
治療方針は重症度、副作用の出方、内臓の状態、さらには妊娠・出産や仕事・学業などの社会的状況も踏まえて検討されます2)。SLEはいつ、どこに炎症が生じるかわかりにくく、「何となくお腹の調子が悪い」「何となくだるい」など、関係ないと思った症状がSLEによるものだったということもあるため、何気ない変化の訴えや適切な頻度の検査は、治療を考える上で重要です。
今ではSLEの方も、ほかの人と変わらない生活を目指せるようになってきました。今も治療は進歩しているため、新しい情報を治療方針に反映させる観点からも、主治医と積極的に相談して治療を進めることが大切です。

SLEの治療目標疾患活動性をコントロールする。臓器への影響を抑える。異常を生じた免疫による自身の体への攻撃の勢いのことを疾患活動性といいます。SLEの治療では、複数の薬剤を適切に使い、再燃を起こさないよう、疾患活動性をできる限り低く維持し、症状をコントロールすることを目指します。

SLEの治療目標疾患活動性をコントロールする。臓器への影響を抑える。異常を生じた免疫による自身の体への攻撃の勢いのことを疾患活動性といいます。SLEの治療では、複数の薬剤を適切に使い、再燃を起こさないよう、疾患活動性をできる限り低く維持し、症状をコントロールすることを目指します。

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患者体験談

「SLEとわたし」

セミナーでは中学校の教諭をしているケイさんにSLE患者としての体験を語っていただきました。

気になることは医師に積極的に質問

ケイさんは最初、皮疹や脱毛の症状で皮膚科に通い、倦怠感や手のこわばりを感じたために情報を収集して血液検査を依頼したところ、膠原病内科を紹介され、SLEと診断されました。治療を進めることで倦怠感は改善したものの、腎機能の低下を指摘されたそうです。血尿やタンパク尿など、腎機能が低下した際に起こるような症状には気づけず、主治医に指摘されるまで分からなかったと振り返っています。現在では免疫調整剤を服用して3カ月に1度通院しつつ、職場でも段階的に職責を広め、ご活躍されています。
入院時から外来での通院時まで、ご自身で主体的に情報収集しながら、医師に積極的に質問してきたというケイさん。現在では診察時間も限られていますが、聞きたいことを事前にメモに用意した上で医師や看護師さんなどに質問することで、安心して治療に臨めているそうです。

周囲の人に症状を具体的に伝える

ケイさんは、職場の方に理解を得られるような工夫もしています。特に、SLE自体あまり認知されていないということを踏まえ、周囲に自身の置かれている状況や症状を具体的に伝えるよう心がけているといいます。
周囲の人も、知らないから誤解をしたり、サポートできなかったりするため、症状を知ってもらうことで、周囲の人も納得でき、お互い過ごしやすくなるのではないかと考えているそうです。
最後にケイさんは、正しく情報収集することの重要性を強調しつつも、気になることがあれば些細なことであっても主治医の先生に質問し、教えてもらうことの大切さをあらためて伝えました。 

  • 1) 橋本博史: 全身性エリテマトーデス臨床マニュアル第3版、日本医事新報社、東京、2017.
  • 2) 「難病情報センター 全身性エリテマトーデス
    (SLE)(指定難病49)」(厚生労働省)https://www.nanbyou.or.jp/entry/53(2025年7月1日に利用)
  • 3) 田中良哉 薬局 2015;66:28-33.
  • 4) Kanasaki K, et al. Front Endocrinol (Lausanne). 2013 Feb 6;4:7.